『源氏物語』須磨 現代語訳 おもしろい よくわかるその1

『源氏物語』須磨 その1 の原文

須磨には、いとど心づくしの秋風に、海はすこし遠けれど、行平の中納言の、
「関吹き越ゆる」
と言ひけむ浦波、夜々はげにいと近く聞こえて、またなくあはれなるものは、かかる所の秋なりけり。御前にいと人少なにて、うち休みわたれるに、一人目を覚まして、枕をそばだてて四方の嵐を聞き給ふに、波ただここもとに立ちくる心地して、涙落つともおぼえぬに、枕浮くばかりになりにけり。琴をすこしかき鳴らし給へるが、我ながらいとすごう聞こゆれば、弾きさし給ひて、

恋ひわびて泣く音にまがふ浦波は思ふ方より風や吹くらむ

と歌ひ給へるに、人々おどろきて、めでたうおぼゆるに、忍ばれで、あいなう起きゐつつ、鼻を忍びやかにかみわたす。

『源氏物語』須磨 その1 のあらすじ

須磨に退去した源氏が都を恋しんで忍び泣いている部分。

『源氏物語』須磨 その1 の訳に入る前に

この頃の光源氏は?

正室葵の上を22歳で亡くした源氏は、
幼いころより引き取って、
自分のそばで育てた紫の上と新枕を交わす。

その2年前には、当時東宮に入内する予定の朧月夜を見初めて関係を持っていた。

朧月夜の父は源氏と対立する右大臣。

右大臣は東宮の妻として良い地位で入内させようと思っていた娘に手を出した源氏が気に入らない。
元々源氏の正室葵の上は左大臣の娘であるから、対立関係にある。

<span class="su-quote-cite"><a href="http://genji.choice8989.info/main/suma.html" target="_blank">都を追われ須磨へ行く光源氏</a></span>

26歳になった源氏は朧月夜との再度にわたる関係を右大臣に知られたことで、
心を決めて自ら須磨(神戸市須磨区)への退去を決意する。

葵の上が亡くなって5年後のことである。

この時、18歳に関係を持った恋い慕う藤壺中宮は、
不義の子冷泉帝を生み、源氏24歳の時には出家している。

源氏の須磨行きの原因は、朧月夜でもあるが、藤壺の存在も無関係ではない。

この時光源氏と関係のあった女性
◇正妻すでに逝去・・・葵の上

◇思慕・・・藤壺中宮

◇大事な妻・・・紫の上

◇自ら身を引いた・・・六条御息所

◇若気の至り・・・末摘花

◇長い付き合い・・・花散里

◇謎の死・・・夕顔

◇人妻・・・空蝉そしてその子軒端荻

『源氏物語』須磨 その1 の超現代語訳

須磨は秋の気配になっています。
いっそう気持ちを乱されるような秋風が吹いています。
海は源氏の家から少し遠くにあります。

その昔、藤原行平中納言が

旅人は袂涼しくなりにけり関吹き越ゆる須磨の秋風
旅人は袂に風吹き込んできて秋を感じるよ、でも風はいいなぁ、関所を越えて京にいけるから

と詠んだという須磨の岸に打ち寄せる波。
それが夜になると、すぐそこに岸があるように近くに聞こえるのです。
それがもうなんともの悲しいことでしょうか。
これが須磨の秋というものなのです。

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光源氏のお側には人が全く少のうございました。

一同が寝静まっている中、
源氏は眠られなくて、一人目を覚ましてしまわれます。
枕を傾け耳を澄まして、周囲の嵐の音をお聞きになっていらっしゃいます。
すると、波がすぐこの近くに寄せてくるような気がするのです。
自分でも気づかないうちに涙が溢れて、枕が浮くほどになってしまいました。
起きて琴を少しばかりかき鳴らしなさいましたが、
我ながらますますもの寂しく聞こえたので、途中でおやめになられました。

恋ひわびて泣く音にまがふ浦波は思ふ方より風や吹くらむ
波の音は恋しくて泣いている人の声とよく似てるよね。それはたぶん私を恋しがってくれてる都の人たちの声が風に乗ってくるからなのではないかなぁ。

とお詠みになると、
一同は ははっと目を覚まして、
さすが源氏の君だ
とは思いながらも、
都にいられなかった君のお気持ちを思うと、耐えられません。
意味もなく起きたり座ったりしては、次々と鼻をそっとかんでいます。

先生の感想

先生
今のように映像もなく、京から出たことのない人たちが、
これを読むだけで須磨の海岸の秋の寂しさを想像できる、
素晴らしい描写ですね。
源氏のやるせなさや、
周囲の人々の同情もよくわかります。
さすが紫式部です。

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