1 原文冒頭
2 超現代語訳
<前回まで>
このページは、『伊勢物語』23段「筒井筒」の3回目です。
幼馴染だったふたりは、危機を乗り越えて、また仲の良い夫婦に戻りました。
では、男の足が遠のてしまった河内の女はどうなったんでしょう。
男は、今でも時々大阪の例の女のところに通っていました。
完全に切ってしまうのも、情けがなくて無責任なことだから。
でも、以前に比べたら回数が減ってしまっていたんです。
今回も、間があいて、やっと大阪の女のところに来てみたんだけど・・・。
この大阪の女。
最初こそ心ゆかしい感じで良かったのに・・・。
今は打ち解けすぎて、本性があらわれてきてしまったみたい。
自分からしゃもじを持ってご飯をよそおうのを見て、
男はドン引きしてしまいました。

召使にやってもらうのが普通なのに、
待ちきれないとばかりに、
自分でお行儀悪くご飯を盛り付けてる姿を見て、
男の気持ちが離れてしまったんですね。

きちんと化粧して
上品なふるまいをしていた妻とは大違い!
男は、大阪の女のところにはもう寄り付きもしなくなってしまいました。
そこで、女が男に歌をよこします。
雨が降っても、雲よ。あの人との間にある生駒山を隠さないで。

奈良県生駒郡と、大阪府河内郡との境にある山。
ここでは、奈良に男が、大阪に女がいて、
その中間に生駒山がそびえているという構図があります。
河内の女は、歌を送ってから、
ぼんやりと外を眺めています。
すると男から、やっとのことで、
という一言が。
河内の女は喜んで待っているんだけど、
でも、いくら待ってもその一言だけで、
男は実際には来てくれません。
もう完全に気持ちが離れてしまってますね。
何度待っても来ないことが続いて、時間だけが過ぎていきます。
女はもう一度手紙を書きました。
その夜ごとにあなたは来てくれないから、
時間がむなしく過ぎてしまったわ。
もうあてにはしていないんだけど、
あなたを恋しく思いながら毎日過ごしているのよ。
こんな恋文がきても、男はもう河内の国の高安の女のところには、
いっさい行かなくなってしまいましたとさ。
上品で気立ての良い妻のほうが、
経済的なことにも勝って愛おしく思えたのですね。